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旅行会社こぼれ話 第21話

仙人ガイドさん

日本では、春と秋の時期の団体さんが動き出す、いわゆる旅行シーズンになると、どうしても外回りの手が足りなくなり、いつもは室内で優雅に過ごすカウンター嬢も【添乗】というものに駆り出される場合が有ります。

ある秋の日、私も先輩添乗員数名と共に、バス数台の大団体さんの1泊2日のバス旅行へと出掛けました。目指すXX温泉へとバスは出発!

一夜漬けで覚えた添乗員の挨拶を、たどたどしく済ませた私の次に、マイクを持たれたガイドさんは、あの舞台女優の大御所「山田五十鈴」のそっくりさんでした。最初 『能面が喋ってる~!』 と思いましたが、その白い顔から繰り出される話術は、弾丸の様に凄まじく、素晴らしいものでした。

ちょっとした雑学博士風のおじさんが、意地悪な質問をしたりしても、山田さん(以下、もうそのガイドさんは"山田さん"と呼ばれる事になります。)は、おじさんの100倍の知識量と弁舌でどんな事にも答えられるのです。バスが通る道すがらの土地土地にまつわる昔話、歴史から、最近起こったちょこっとネタまで、何から何まで神様の様にご存知なので、次第に車内の老いも若きも全員が山田さんのお話に釘付けになっていました。

もう車中全部が笑うツボも驚く所も一緒で、『バスが動き出したら寝てても良い』 と、大先輩達に教えられてた私も、もうお話が面白くって寝てるどころじゃ有りませんでした。

そして、バスはXX温泉に到着、宴会も2次会も無事終了し、添乗員の営業時間も終了しました。私はバスの乗り組みも同じ、山田さんと同室でした。普通、ガイドさんは添乗員なんかと部屋が一緒だと非常に嫌がられてご機嫌が悪いものですが、山田さんは違いました。バスの中に増して、翌日周るコースやいろんな事について教えて下さいました。そして、夜も更けたので温泉に行きましょう、という事になり一緒に行きましたが、山田さんはお風呂に入ってからも、上がってからも、決して真っ白な化粧を落とされませんでした。『夜中の2時か3時の、人が誰も居ない時間に2度入りするのが大好きなの。』 と山田さんは言うので、『その時まで起きてて、一緒にもう一度お風呂に行ったら、素顔を見れるかも!』 と私はとっても楽しみになり何が有っても起きている事にしましたが、そんな決心も虚しくすぐに寝てしまい、あっという間に朝でした。

翌朝、6時頃の起床でしたが、隣の山田さんは身支度も終わる寸前で、顔も昨日と同じ様にすっかり出来上がっておられました。私は一生に一度の、すごく貴重なものを見るチャンスを逃した様な気がしてなりませんでした。

2日目は、温泉の近所のテーマパーク観光、お寺参詣、海沿いの景勝地観光等でしたが、山田さんのお陰でうちのバスは、昨日に続いて大変いいムード。もう皆さんの名前もすっかり覚えて1泊2日の家族の様になっていました。

そして、高速道路上で日も暮れて、何だか 『とうとう旅行も終わったね~』 というムードも高まる、前方の車のテールランプの波の中、やっぱり山田さんはグッドタイミングで現れ、お別れの挨拶を始めました。

「'一期一会'という言葉がございまして・・・・、・・・・私の50年余のガイド生活、最高のお客様でした・・・。」

よく聞く様なセリフも山田さんの声や音調だと、確かに50年以上の重みが有りました。誰かが質問しました。

「・・っていう事は、山田さんは今、いくつなの?」

「今年で、73歳よ~、バスガイドは定年が無いの、知らなかった??」

「だから、仙人みたいに何でも知ってるんだね。」

とまた誰かが言いました。

その50代にしか見えない元気さ、姿にしても、正に神技、その通り!と、私も思いました。そして、山田さんの感動の挨拶で泣き出す女性陣の姿も有り、お別れがとても寂しくなって来ました。山田さんも涙ながらに挨拶を終えられ、私もわんわんと泣いておりました。『来年もまた行こうね。』 と、お客様から最高のお言葉を頂いて、お客様を見送った後、この1泊2日の旅の余韻に浸る私に、山田さんは言いました。

「もう~、化粧が落ちない様にウソ泣きするのが大変だったわよ~。あんたも、お客さんに泣かされるより、泣かすぐらいになりなさ~い! もう、さっさと清算済まして!」

と、もう普通のおばちゃんに戻っておられました。

・・・・、こ、これぞ、プロだっっ!!私達は、この仙人様の術中に2日間、まんまとはまっていたのです。

その後、何度か山田さんと乗り組むチャンスが有りながらも、未だに素顔を拝む事は出来ない私なのでした。

Written by 花のカウンター嬢